身近におこりうる、川の事故

「四国吉野川・小歩危で起こったラフト客の落下事故」報告

「MLから抜粋」
(030809up)
2003年7月20日、
四国の吉野川「小歩危」で起こった、ラフト客の落下事故を、
偶然目撃した方の報告を転載させていただきました
この場を借りて、厚くお礼申しあげます。
(編集・文責RS事務局かとう)


報告者から・・・
7月20日に起こった落下事故の第一発見者となり、ホイッスルを持っていた事がラ
フト各社のガイドを逸早く呼ぶ事に繋がりました。また、ラフトガイドが多数居合わ
せた事が無事救助に繋がったと思います。

沈脱したら安全な場所まで立とうとせず、足を上げて流されるというのは鉄則です。
まずは予防ですが、救助方法体得も重要だと感じました。

初心者にまず教える事は、自然を相手にする以上、自己責任が原則です。
又、静水でのパドルの初歩練習以前に、最初に
沈脱方法とセルフレスキューっを学ぶのが基本と思っていましたが、
この考えは今回のことで改めて正しいと思いました。
この報告が、川であそぶ皆さんの参考になることを願っています。
報告
我々が曲り戸の瀬に着くと、ラフティング・スクールの1社が下っている最中で、1社が上流で待機、1社が上流から下って来ました。
下流側左岸では既に瀬を下り終えた某社のラフトツアーが上陸して休憩していました。我々は右岸へ上陸し、スカウティング(注1)を行いましたが、あまりの巨大さとラインの複雑さ、それとホール(川の流れの落下・滝状態の部分)直下にある険悪なテーブルトップ岩が、チキンルート(注2)or根性ルートを無くしていたためポーテッジを決めました。
(注1)スカウティング
あらかじめ川を下る前にコースを下見すること
(注2)チキンルート
瀬の中で下るコースがいくつか選ぺる場合、その中で一番やさしく、安全なコース

(注3)ポーテッジ
フネを水から上けてかつぎ、歩いて通行不能な場所を越えること

曲り戸の瀬
仲間は左岸へと漕ぎ渡っていきましたが、なんとか下ってやろうと覚悟を決めた矢先、視界にオレンジ色のPFD(注3)を着た人が1名入ってきました。
彼は何を思ったのか、曲り戸の瀬・左岸の岩が多数出ていて落ち込みのある上流側に入水し歩いているのです。不思議に思い見ていると、不意に足が滑ったのか、わざと流れ落ちようとしたのかは本人でないと分かりませんが、入水までは意思をもって行っていたのは確かです。そしてフッとシュート(注4)を落ちていき一瞬にしてフットエントラップメント(注5)に陥りました。

陥った直後はPFDがオレンジ色だったから見えているという程度に完全水没(15時)。直ぐに右岸に居合わせたガイドに遭難者の存在を知らせ、一緒にホイッスルを吹き対岸へも知らせました。

最初は左岸からは良く見えないようでしたが、ジェスチャーして場所を教え左岸のガイドにも発見されました。状況を飲み込んだガイドは直ぐに左岸に居たガイド達を集め、その間に3名のガイドが遭難者へ近づき引き上げようと試みました。
(注4)PFD
パーソナル・フローティング・デバイスの略。ライフジャケット、救命胴衣のこと
(注5)シュート
水流の激しい細い落ち込み
(注6)フットエントラップメント
川などで、足首(フット)が石の隙間にはさまれて倒れたり、あるいは川に流されたときに、水中の石や岩の出っ張りなどにつかえると、水流の勢いで圧力がかかり、抜け出られなくなる。

遭難者を引き上げようとするガイド
その間の遭難者は自力の腕力で体を多少引き上げ息を吸ってはまた潜るという状態でした。2名のガイドの人力では全く引っ張りあげる事が出来ずにいましたが、頭を水面へ出す事は出来ていました。

その頃救出に集まったガイド達は周囲にOKサインを出していたので、引き上げる見込みが着いたのかと思いましたが、それが甘かったのか状況に変化は無く右岸から見た限りではPFDが引っ掛かって流されずに居るように見えていました。

集まって救助中のガイド達も同様だったらしく、遭難者のPFDを脱がそうとしていました。しかしPFDを外す事が出来ると逆に遭難者は水没してしまい、フットエントラップメントと分かりました。

続々と集まったガイド達の内数名が川側からの救出補助のため上流下流からそれぞれロープ確保を受けラフトボートを回しました。遭難者にもロープを回し岸から引き上げる事を試みましたが、なかなか方向が定まらず難儀していました。

救急車の音が聞こえ救急隊が現場に到着しましたが、引き上げられる様子は無く状況は変わりませんでした。遭難者の顔は水面に出ていましたが水流は顔に掛かり呼吸が困難のようで、ポンプのチューブを咥えさせたりパドルのブレードで顔への水圧を逃がしたりしていました。既に30分以上が経過しましたが遭難者の腕が時折動くので生存は確認出来ました。

しかし本当にもう駄目なのではないか、ただ遠望しているだけの自分は何なのだろうかと思っていると、スタティック等(注7)を左岸へ渡したいという話をガイドがしていたので、自分はカヤックだから持って行くとその役を買う事にしました。カヤックへ戻り左岸へ向う途中、、ワッと歓声が沸き起こり救助の成功を知りました。45分後でした。
後で聞こえた話ではもう5〜10分遅かったらハイポサーミアでアウト(注8)だったそうです。
(注7)スタティック等
場合によって異なるが、伸縮率の少ない救助用のロープやギア(Uプーリー(滑車)やエイト環、カラビナ等)のセット.。
(注8)ハイポサーミア(低体温症)
深層体温(重要な臓器がある胴体内部の体温)が低下して発症する病気


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